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風見(峯) 遼佑 / Ryosuke Kazami (Mine)

1983年、栃木県生。大学で言語学、大学院で分析哲学を学んだのち、ドロップアウトしダイキン工業入社。現在、エンジニア組織の経営企画的なことに従事。趣味はジャズとかとウッドベース・ボルダリング。

[CALR]vol.17『光の教会 安藤忠雄の現場』

2013.01.24

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 『光の教会 安藤忠雄の現場』平松剛 2000年

 

建築家、安藤忠雄の有名建築、いわゆる「光の教会」が完成するまでを、追いかけた、建築ドキュメンタリー的な本です。

解説によると、そういういち建築プロジェクトのを当事者の声を交えてルポ的に書いた本は、それまであまりなかったそうです。その真偽はわからないのですが、読んでみて初めて、よく聞く「建築家もすごいけど、それを施工する人のほうがもっと凄い」という意見の意味がよーくわかりました。

「雨が振る日のコンクリート打設は困難。でも他の日に伸ばしたら、当時バブル時代で日雇いの職人が引く手あまた過ぎて、赤字プロジェクトの現場には来てくれない。他の現場に行ってしまう。どうしても今日打たなければ…」

「あのコンクリート打ちっぱなしにあるの「○」の跡は、施工上規則正しく並んでいることに意味はないけど、安藤建築ではその並びをミリ単位で管理するため、大工さんがそれを知らずにやってしまい、寒空の中やりなおした」

「天井面のコンクリートを打った後、温度管理が重要。さらに浮いてくる液をコテでならす作業が深夜までつづく。雪が降ってきて、ブルーシートが風で飛ばないよう、徹夜で人が押さえているしかなかった」

こういったことは、建築素人の私は読んで初めて理解したことでした。これから安藤建築(さいわい、プライベートで訪ねる機会が非常に多い)を見る目がかなり変わりそうです。

 

この本を読んで特に思ったことは2つあります。

 

①自分の生活をきちんとしたい:安藤忠雄の言葉に「建築はハコであり、その中でどういう生活を作っていくかが、大切!」というのがありました。私事ですが、最近引っ越し先を探しています。賃貸サイトの間取りを眺める日々ですが、重要なのは、そこで自分がどんな暮らしをつくっていけるかだということは肝に銘じないといけないのです。

 

②仕事のやり方がおかしい:これはいい意味でも、悪い意味でも。自分はふだん会社で働いていて、モノづくりにはある程度決まったプロセスがあり、それをもとに関連部門とやり取りしてものを作っていくものだ、時にそれが無いような新しい仕事でも、ある程度そこは考えながらやってくもんだとは思っているのですが、この本に書かれている安藤建築研究所の働き方は、そんなもんじゃねー、という感じです。

  • 自分が作るものへの強烈な思想をもってお客さんに臨み、相手の意見に安易に迎合しない(十字架になった窓にガラスをはめない・床もイスもは足場材…etc、普通の人ならしてしまいそうなことを、思想に基づいて断固やらない)
  • 気に入らなければ、何度でもやり直し(我々、QCDの達成というのを必死で追いかけますが、プロセスがめちゃめちゃでDを成り立たせるのは、当事者はマジでキツイと思う…)
  • アトリエ的建築事務所は大変だなーという思いと、商品をお客様に本気で気に入ってもらうには?というマーケティングへの強烈なヒントが書かれているように感じました。

 

[その他に、この著者の本のいい点]

『磯崎新の都庁』を読んだ時も思ったのですが、建築家がその建築案を頭の中に浮かび上がらせるに至った背景ごとや、その瞬間の描写がされており、それがけっこうわかりやすく書かれていて、そこがいいなと思います。この光の教会では、安藤がヨーローッパの教会で得た経験(シトー修道会の、非常に質素な、石造りの、暗い教会の中に、ガラスのない窓から光が差し込んでくる瞬間)が、その後の彼の建築のバックグラウンドになっていることが、わかりやすく説明されています。それをもって、安藤建築は、地中に潜っている建築が多いことなど考えると、非常にわかりやすいなあと。

 

[ひとつだけ、残念なところ]

バブルという建築がらみで金が恐ろしいほど動いていた時代に、赤字プロジェクトを引き受けた安藤忠雄と、それをさらに赤字で引き受けた施工会社という背景ごとを書いているのですが…建築完成後、施工会社の社長さんが亡くなってしまったこともあり、「この教会は、バブルという金がすべての時代に対する安藤の思いをのせた、そして亡き社長の完成への思いをのせた光の教会なのだ…」という浪花節感が漂います。そしてそれは申し訳ないことにそれは少しわざとらしいものになっているように感じてしまいました。

建築に関するホロリとさせる話を書かせたら、石山修武さんにかなうやつはいないぜ!と私は思っているのでね、私は。

 

しかし、結論としては面白くて、手に入れて2日で読んでしまった本。ちなみに同著者の本で言うと、新東京都庁コンペに挑んだ磯崎新を追いかけた『磯崎新の都庁』もよく書き込まれており、完成度が高いです。気になった方はそちらもおすすめします。

 

以上です。

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