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未来の娘へ

熊倉 敬聡 / Takaaki Kumakura

慶應義塾大学教授。新たな学びの在り方を探究し、大学キャンパス近傍に学びのオルタナティヴスペース「三田の家」を共同運営する。最近は、実存的/文明史的課題として「瞑想」に取り組み、3月『汎瞑想』を出版。

[未来の娘へ]2012年1月31日

2012.06.27

 しばらく、未来の君に言葉を宛てることを中断していましたね。
 ついに、君たちが沖縄から帰ってきて、また家は賑わいを取り戻しました。それに伴ってか、来客が相次ぎ、なかなか書く時間がとれませんでした。
 君たちは、沖縄で、いろんなところに行き、いろんな人と出会い、いろんな素晴らしい体験をしたようですね。空港で久しぶりに再会すると、二人とも元気に満ち、何か淀んだものが落ちたかのようにすっきりした顔立ちをしていました。何年もお湯を取り換えていないという怪しげな薬草風呂のおかげで、肌荒れがひどかったお肌も、文字通り赤ちゃんの肌のようにすべすべになっていましたね。沖縄の「気」と「霊」をふんだんに浴び、心身の全細胞が活性化されたのでしょう。帰りを待ちわびた甲斐がありました。

 ところで、今日、ある雑誌のインタビューのために、ある高名なファッション・デザイナーに会いました。
 会う前から、彼の書いたものなどを読むにつけ、同じ「人種」の匂いを感じていました。案の定、そうでした。向こうも、会って、二言三言交わすうちに、そう直感したらしく、その後のインタビューも、かなり深い、おそらくは他のインタビューでは(特にファッション誌では)漏らさないような、かなり彼の生に食い込んだ話が聞けました。
 正味1時間半くらいのインタビューでしたが、いろいろと印象深い言葉やエピソードの中でも特に僕に響いた言葉は、「体を張る」という言葉でした。
 この人は、何十年もずっと「体を張って」仕事をし続けている、その、他に選択の余地のない生き方に、素直に感銘を受けました。「体を張って」為すことだけが、「本物」。それ以外のことは、嫌いだし、そもそも出来ない。そんな常に真剣勝負の気迫に、70歳にならんとする今も、満ちていました。
 でも、その気迫を、決して他人に押し付けるのでもなく(少なくとも僕にはですが)、あくまで自分の人生の「性(さが)」として、そういう働き方、生き方しかできないことを、生き尽くしている美しさがありました。
 彼は、若い頃から柔道や空手をやっているようですが、そうした武道の文字通り「体を張る」気迫が、自然と彼の生に、仕事に乗り移り、一挙手一投足が真剣勝負と化しているようでした。
 翻って、自分を見たとき、はたして自分はそれほど体を張って仕事をし、生きているだろうか。確かに、一時的、断片的にはそうすることはあっても、彼のように始終体を張り続けるとは、到底言えない。何か、自分の中に、そうした生・仕事=真剣勝負から身をかわす「ぬるさ」があり、そこに知らず知らずのうちに逃げ込んでいる。大学の授業や研究、三田の家などの様々なプロジェクト、今度始めたNPOミラツク、はたまた瞑想やヨガにしても、体を張るのは、常時ではなく、一時的に、器用にしてしまっている。
 何年も前に気づいたように、「かなり」「ほぼ」体を張っているつもりでいるが、「かなり」「ほぼ」である限り、真に「体を張って」いることにはならない。「かなり」「ほぼ」を突き抜けるためには、どうしたらいいのか? もっと「バカ」になるべきか? もっと切実な何かが訪れるべきか?
 いずれにしても、真に、常時、「体を張って」仕事と、人生と格闘しない限り、「本物」の仕事、「本物」の人生は、為し遂げえないのだ。ということが、今日の出会い、インタビューでよくわかりました。それに改めて気づかされただけでも、今日、彼と出会えて、良かったと思います。真に「体を張って」、何十年も仕事をし、生きてこなければ、世界から認められるクリエイターにはなりえないことが痛感できました。
 「体を張る」、自分に改めて言い聞かせたい言葉、そして未来の君にも送りたい言葉。

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