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かわや版

堀内 陽平/Yohei Horiuchi

1984年5月23日23時53分、京都市生まれ。双子座。B型。男。尊敬する人は西川顕。現在、新聞社にてお仕事頑張ってます。

Yohei Horiuchi was born at 23:53 on May 23rd in 1984, and grew up in Kyoto. He is Gemini and his blood type is B. His hobby is woman. As a freshman, he currently works hard at a newspaper company.

[かわや版] vol.72 笑顔、ときどき涙

2012.08.31

オリンピックの楽しみの一つに、選手たちの名言集がある。大半は可もなく不可もないコメントが少なくないが、中には心に響く尊い言葉もあって、思わずじんとくる。仕事で他人の思いを言葉に託したり、あるいは自らの言葉で伝えていても予想もつかない表現。うれしさや悔しさの先に出た言葉、その人だけの言葉には尊敬の念さえ抱く。ロンドン五輪のボクシング男子ミドル級で金メダルを獲得した村田諒太選手の一言は、ボディブローのように後からじわじわと心に染みた。「金メダルが僕の価値じゃない。これからの人生が僕の価値になる」

卓球女子団体で銀メダルを獲得した平野早矢香選手は試合後の記者会見で、「今まで一番濃い涙だったかな」と語った。「濃い涙」とは美しい。涙に濃淡があるなんて発想、どこか文学的な香りがしないでもない。妙に感心してしまい、試合内容よりもコメントの方が強く印象に残った。

「涙をあっさりと流さないことで、溜めて、溜めて、濃くして、涙を流す。でも、現代は、とても薄い涙があっさりと出てきている感じがしてね」。重松清は、茂木健一郎との「涙の理由」で、こう漏らす。昨今の泣ける映画、泣ける小説ブームを捉え、涙のたたき売り状態で感情が安くなっているとの指摘だ。セカチュウに限らず、映画の宣伝で「感動しましたー」とか異口同音に絶賛する光景には違和感を覚える。涙は個々の記憶や人生と密接にリンクしているらしく、十人十色にも関わらず、多様なはずの現代人の涙腺が均質化しているとすれば確かに怖い気がする。

なぜ人は感情が高ぶると、目から液体が流れるのか。よくよく考えると、とても神秘的でロマンチックな生理現象のように思えるけれども、涙の仕組みにはまだまだ謎が多いそうだ。悲しい時以外に、悔しい時、うれしい時に流す涙。それから、子どもが駄々をこねて流す涙、いい年をした大の大人がしんみりと流す涙、はたまた女性の武器としての涙では質が違う。最も上質で、一番価値のある自分だけの涙。世界はさまざまな涙で満ちている。

 

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泣き笑い mix
ほしぼしのはら/ 高木正勝
ねね/ 高木正勝
がさぶらたあた/ 高木正勝
雨上がりの家/ 高木正勝
 

映画「おおかみこどもの雨と雪」の主人公、花は言った。「世界は知らないことで満ちている」と。花がこのセリフのようにすべてを受け入れた覚悟に似て、観客も自然と物語に入っていける不思議な感覚。映画をみた後、ナイトスクープで四つ葉のクローバーの声が聞こえるという女の子を見た。作り話の気がしない。クローバー少女がいるなら、オオカミ男だっているだろうな。世界は知らないことで満ちているんだから。

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